歯科医師の借主に対し立退料6000万円が認められた事案

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東京都調布市、小田急線喜多見駅まで徒歩15分の住宅地にある商業施設。ここで約30年物長期間にわたって歯科医院を経営してきた歯科医師である借主。しかし、建物には倒壊の危険があるとして、貸主から立退きを求められました。裁判所が6000万円もの立退料を認めたポイントとは?

裁判所が考慮した事実(東京地判平成25年1月25日)

① 倒壊の危険があり、立退きも進んでいた…

本件建物は、築約40年の建物で、地震により倒壊する危険がある状態でした。また、本裁判の時点で、本件建物を使用していたのは被告(借主)のみで、その使用割合は、総床面積の約2%しかありませんでした。そのため、貸主の賃料収入は固定資産税等の維持費を下回る状態でした。
これらのことから、裁判所は最終的に、借主の立退きが余儀なしとの判断をしました。

② でも、立退きを求めることはできないとの判断もしている!

本件では、本裁判の途中で原告1が原告2に本件建物を売却したとして、原告2が訴訟を承継しています。このような事情から、本判決では、最判昭和41年11月10日を引用して、「正当の事由」の判断のタイミングが意識されました。

原告1が被告に対して明け渡しを求めた時点では、原告1において、建て替えの必要性を証明する資料や、原告1による再開発の具体性が認められない状況でした。そのため、原告1との関係では、立退料を支払ったとしても立退きを求めることはできない旨の判断がされています。

他方、原告2については、耐震強度に関する資料や、原告2による具体的な再開発計画があることから、立退きを求めることができるとの判断がされています。このことから、立退きを求める時点で、貸主側の利益が小さければ、そもそも立退きを求めることすらできないことがわかります。

③ 借主は長年本件建物を使用し、高額の売上げがあった!

本件で、借主は、歯科医院の経営のために、長年本件建物を使用し、継続して数人の従業員に給料を支払い、妻子を養うのに十分な売り上げを得てきました。このことから、借主が本件建物を使用する必要性が高いとの判断がされ、立退料を支払う必要がある旨の判断がされています。

④ 借主は本件建物に多くの費用を使っていた!

借主は、歯科医院という業態上、歯科診療所特有の機材等の設置のため、非常に高額の費用を投じていました。立退料の算定においては、従前の賃料と転居後の賃料の差額、移転費用、休業損害、得意先喪失補償等様々な事情が考慮されますが、本件においては、工作物補償として3300万円もの額が計上されている点に特徴があります。

弁護士が解説する本件のポイント

本件の特徴は、①原告1と原告2とで立退きの可否の判断が分かれていること、②工作物補償が高額であることの2点です。

①からは、貸主において、解約告知時点での建物倒壊の危険性や再開発計画の具体性の立証が不十分であれば立退きが認められない可能性があることがわかります。
②からは、建物に投じた費用が大きければ大きいほど立退料も高額になりうることがわかります。

そのため、原告が主張するような立ち退かせる必要性が本当にあるのか、立退きにより借主はどれ程損をするのかを緻密に主張立証していくことが重要といえます。

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