貸している建物を建替えたい!立退料で建物の劣化は重視されるのか?

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立退料は、建物を貸している側に有利な事情と、借りている側に有利な事情を天秤に乗せたときに、貸主側の事情の方が軽くなってしまう場合の調整材料となります。貸主側の事情では、建物の状態が重視されることがあります。では、そのような場合はどのような場合でしょうか?

建物の状態が重視された裁判例の事案(東京地判平成20年4月23日)

問題の建物は、都心の一等地にあるX所有の木造3階建て住宅で、Y1~5が借りていました。築約80年の同建物は、経年劣化により傾くなどしていたため補強不可能で、倒壊の危険等を避けるため、数年の間には取壊す必要がありました。

Xは、上記危険性や、Y1らに対する賃料が周辺の相場の約20分の1しかないことを考慮し、本件建物を取壊して土地を有効利用しようと考えました。
他方、Y1~3は、収入の少ない高齢者で、長年同建物を生活の基盤にしてきました。Y5も長年本件建物で生活し、妻がY3の生活の補助をしていましたが、Y5にはある程度の収入がありました。Y4は、同建物を残業の際の寝泊りのためにのみ使用していました。

判決において重視されたポイント(X側の事情・建物の状況)

本判決の目玉は、X及びY1らが本件建物を使用する必要性のほかに、本件建物の状態が重視されている点にあります。
本件建物は、近いうちに取壊す必要があるほど劣化しており、そのために賃料も著しく低額でした。これらのことから、裁判所は、本件建物を取壊して土地を有効利用することが社会経済的に有益である旨の判断をしています。そして、Xは、まさしく土地を有効利用したいと考えていたので、本件建物の状態は、X側に有利な事情として考慮されています。

判決において重視されたポイント(Y側の事情・立退料)

しかし、Y1~3は、高齢で長年の生活の基盤からの退去を余儀なくされ、収入面からしても安価な本件建物を引続き使用する必要性が大きいといえます。Y5も収入面での必要性が低いものの、長年の生活の基盤からの退去はやはり大きな負担です。他方、Y4の使用方法からすれば、Y4が本件建物を使用する必要性は著しく低いといえます。
裁判所は、これらのようなYらの事情と、建物の状況を中心としたX側の事情を天秤に乗せ、以下のような立退料を認めました。(なお、Y1とY2・3の額が大きく異なるのは、部屋の大きさが考慮されているからです。

Y1   850万円  (面積:約71㎡)
Y2・3 240万円  (面積:約20㎡)
Y4      0円
Y5    50万円  (面積:約25㎡)

上記のように、建物の状態が立退料の算定の際に重視されることがあります。

ただ、注意したいのは、貸主側の利用計画が具体的でないことを理由に建物の状態を重視しなかった裁判例(東京高判平成5年12月27日)もあることです。建物が劣化しているからといって、必ずしも貸主側に有利な判断がされるわけではありません。

このように、立退料は、非常に多くの事情が複雑に絡み合って算定されることになります。そのため、立退料の要否や立退料の価格の判断で困ったら、一度弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。

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